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東京地方裁判所 昭和36年(ヲ)3778号 決定

決  定

埼玉県所沢市御幸町七三八番地

申立人

朝日産業株式会社

右代表者代表取締役

永野豊

右代理人弁護士

飯田厳

世良田進

東京都大田区仲蒲田三丁目一二番地

相手方

小島富次郎

右当事者間の昭和三六年(ヲ)第三七七八号執行方法に関する異議申立事件につき次のとおり決定する。

主文

本件異議申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

本件異議申立の趣旨及び理由は次のとおりである。

申立の趣旨

被申立人が申立外関定一に対する東京地方裁判所昭和三四年(ヲ)第九三八号執行方法に関する異議申立事件の和解調書の執行力ある正本に基き、別紙目録記載の物件に対してなした民訴第七三一条第五項の規定による競売手続はこれを取消す。

との御裁判を求める。

申立の理由

一、被申立人は、申立外関定一に対する東京地方裁判所昭和三四年(ヲ)第九三八号和解調書正本に基く土地明渡強制執行として目的地(大田区仲蒲田三丁目十二番地ノ八宅地二〇四坪一合一勺及同番ノ三の土地)上に存在する申立人所有に係る鉄材等動産を引取りを怠つた事を事由として民訴第七三一条第五項の規定に依り遺留物の換価処分として昭和三六年十二月十一日被申立人の委任したる東京地方裁判所執行吏西直吉をして競売に附した。

二、然し乍ら、かかる競売手続は何等理由なきものである。

蓋し、申立人所有に係る該物件は土地明渡請求の目的土地上に存したる事は事実であり(強制執行を受けている土地である事は後に知つた)従つて、執行吏により引取搬出方告知を受けた事も事実であるが申立人は引取を拒んだ事実は毫も存しない。

昭和三十六年九月十一日付内容証明郵便を以て該物件の保管者たる西執行吏に対して引渡されたい旨通告するも、これに応ずることなく、再度内容証明郵便を以つて場所日時を指定して引渡し方請求するも何等之に応ずる事なく申立外関定一が受取りを怠つた。

三、元来、本件の換価処分は右の点(引取を拒んだとの理由)に付いてすでに問題の存する処である。のみならず、該物件が申立人の所有に属し、申立外関定一の所有でない事は被申立人の委任したる西執行吏も認めており、関定一も之を争わざる処であり、執行調書によつても明白である。のみならず、同執行吏宛に申立外関定一より、右物件は自己の所有に非ずして、朝日産業株式会社の所有たる旨内容証明郵便を以つて通告している。にも不拘、強引に換価命令を得て、競売に附し、目下競売手続中である。

かかる強制執行は明らかに不法なものである。若し、競売手続が完結するに至れば、申立人の所有権は何等の理由なく侵害され、回復すべからざる損害を蒙るものである。

依つて、申立人は競売手続の取消を求める為、本申立に及んだ次第である。

物件目録

東京都大田区仲蒲田三丁目一二番ノ八及同番ノ三宅地

二〇四坪一合一勺

右地上に存在する

鉄屑類約一〇〇トン

よつて按ずるに、不動産明渡の強制執行に際して執行吏が取除いた執行の目的物にあらざる動産があつて債務者の不在又は受取拒絶等の事由により債務者に引渡ができないため執行吏がこれを保管するのは、執行債権者をして当該不動産の占有を得せしめることによつて終了した強制執行から派生した事務的な附随処分であつて極めて短期間に終了することを予定した臨時の処置に外ならない。従つて債務者が執行吏保管手続を終了させるためには当該動産を保管場所から現実に搬出除去して右保管場所を明渡すか又は保管場所につき権利を有する者との間に場所の使用についての合意を成立させ然る後執行吏に対し現実の引渡を求めるのでなければならない。然るに申立人は執行吏西直吉から本件動産の引取搬出の催告を受けながら昭和三六年九月一一日以降書面をもつて同執行吏に対し引渡方を通告したまま同年一二月まで右動産を保管場所に放置してあつたことその主張自体で明白であり、申立人の右通告に対し執行吏が引渡を拒んだことを認むべき何等の証拠もないばかりでなく、執行吏の上申書並びに昭和三六年(甲)第六五四三号土地明渡執行事件記録、及び昭和二六年(甲)第三〇五九号仮処分執行事件記録によれば、執行吏は早期の搬出受取をこそ望め申立人又は債務者関定一の受取を拒んだことは全くなかつたこと及び申立人は書面による前記通告において執行吏に対し現状のまま引渡を要求すると同時に保管場所たる土地の使用については執行吏より土地所有者に対し交渉されたい旨を申出ていることが認められ従つて右通告だけでは有効な受取の申出ということはできず、債務者関定一もまた執行吏からの催告に対し昭和三六年一一月二一日正午までに受取るべき旨を書面で申出ただけで搬出等現実の受取行為をしないで放置してあつたことが右記録により認められる。よつて執行吏が民事訴訟法第七三一条第五項の売却手続を開始したことは正当であつて何等の違法はない。

次に申立人は本件動産が申立人の所有に属することを理由として前記売却手続を違法であると主張するのであるが、民事訴訟法第七三一条第三乃至第五項の手続は債務者が占有していた動産についてなされ債務者がこれを現実に受取ることにより終了するのを本旨とし、同条第五項の規定による売却処分は債務者が受取を怠つた場合の唯一にしてやむを得ざる処分としてなされるのであつて、第三項以下の手続は当該不動産の換価を本来の目的とするものではないから、その動産所有権が何人に属するかは問うところではない。(売却により損害が生じたときは受取を怠つた債務者と権利を主張する第三者と間において別個にその負担を決定すればよい。)従つて申立人の右主張も異議の適法な理由とならない。

もつとも、前記明渡執行事件記録及び仮処分執行記録を調査すると、執行吏は債権者小島富次郎から債務者関定一に対する不動産仮処分執行事件の点検手続において本件物件を申立人の占有に係るものと認定し占有排除の処分として一部ずつ順次目的不動産外に搬出して保管し、然る後同一当事者間の不動産明渡の強制執行として右不動産を一部ずつ順次債権者に現実に引渡し、その後申立人に対し保管にかかる本件動産の受取方を求めていたのであるが、昭和三六年一〇月一七日に至つて債務者関定一に対しあらためて引取の催告をなし、同人がその受取を怠つたので同年一一月八日執行裁判所から売却の許可を得たことが認められる。然しながら右仮処分執行事件記録によれば、本件動産はもと債務者関定一の所有しかつ占有していた物件の一部であつて昭和三五年九月六日以前に申立前東和鉄鋼株式会社に譲渡され債務者が代理占有していたところ(前同日附点検調書参照。なお関光子の陳述中認定に反する部分は措信できない。)同年一一月八日附で更に申立人に譲渡されたが、現実の占有は依然として債務者にあつたことが認められ、従つて執行吏のなした前記保管手続及び売却手続は結果において正当であつたことに帰着する。加うるに本件動産の取除きを含む前記不動産明渡の強制執行はすでに終了しているのであるから、今に至つて右取除処分を取消し不動産明渡の執行手続を繰り返すことは何等の実益もないことであつて、執行吏の本件動産保管処分以前の手続上の瑕疵を理由として右保管及び本件売却手続を取消すことはできないものといわざるを得ない。

以上説示のとおり申立人の本件異議は全部理由がないからこれを却下すべきものとし、申立費用を申立人の負担として、主文のとおり決定する。

東京地方裁判所民事第二一部

裁判官 近 藤 完 爾

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